食道には、器質的疾患ばかりでなく、機能的疾患もある。疼痛などの知覚の解明には、求心性神経支配を、機能に関しては遠心性神経支配について知る必要がある。自律神経には交感神経と副交感神経があり、食道の交感性神経支配については前年度までの研究で、頸部食道と胸部食道では脊髄支配分節に差があること、大内臓神経を経由する経路や星状神経節を介する交感性求心性神経の存在することが解明された。 本年度は、頸部食道および胸部下部食道の副交感神経性求心性および遠心性神経支配について検討した。雌雄成熟ネコを用い、HRP(Horseradish Peroxidase) 注入部位を頸部食道筋群と胸部下部食道筋群に分け、HRP注入後48時間の生存期間をおいて灌流固定し、頚静脈孔神経節・頸部節状神経節・延髄を取り出し、40μm厚の切片を酵素反応させ、明視野顕微鏡下にHRP陽性細胞を観察した。 頸部・胸部ともに頚静脈孔神経節・頸部節状神経節にHRP陽性細胞がみられ、副交感性求心性神経支配が証明された。また、求心性神経支配についてみると、頸部食道筋群は副交感神経支配が優勢であり、胸部下部食道筋群では交感神経支配が優勢であった。 副交感神経遠心性神経支配に関しては、節前線維の細胞体は、頸部食道筋群では延髄の疑核に、胸部下部食道筋群では延髄の疑核および迷走神経背側核に存在することが判明した。 神経細胞の大きさを測定すると、頸部節状神経節ではHRP陽性細胞は有意に小型であり、延髄迷走神経背側核・疑核ではHRP陽性細胞は有意に大型であった。
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