食道自律神経支配についてHRP法を用いて検討した。動物は雌雄成熟雑種ネコを用い、頚部食道筋群と胸部下部食道筋群に分けてHRP注入実験を行った。また、神経路を検討する目的で、種々の処置を加えた後にHRP注入を行い、各神経節のHRP陽性細胞を観察した。 頚部注入群では、両側第1頚髄(C1)から第9胸髄(T9)に及ぶ脊髄後根神経節(DRG)にHRP陽性細胞を認め、C2-C5及びT2-T7に陽性細胞が多く、二峰性の分布を示した。神経切離処置により、前者は横隔神経を後者は大内臓神経を主たる経路としていた。胸部下部食道筋群では、両側第5頚髄-第13胸髄DRGより交感神経性求心性神経支配を受け、大内臓神経が主たる経路であった。他の経路として両部位とも星状神経節を介する交感神経心臓枝および交感神経幹よりの直接の神経枝が存在した。また、迷走神経節状神経節・頚静脈孔神経節にも陽性細胞を認め、副交感神経求心性神経支配が証明された。求心性神経支配についてみると、頚部食道筋群は副交感神経支配が優勢であり、胸部下部食道筋群では交感神経支配が優勢であった。交感神経遠心性神経支配についてみると、頚部食道筋は上頚-第8胸部椎傍神経節、胸部下部食道筋群は上頚-第12胸部椎傍神経節及び椎前神経節より交感神経節後神経の支配を受けていた。副交感神経遠心性神経支配に関しては、節前線維の細胞体は、頚部食道筋群では延髄の疑核に、胸部下部食道筋群では延髄の疑核および迷走神経背側核に存在することが判明した。神経細胞の大きさを測定すると、脊髄後根神経節・星状神経節・頚部節状神経節ではHRP陽性細胞は有意に小型であり、迷走神経背側核・疑核では陽性細胞が有意に大型であった。
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