末梢動脈血行再建術の遠隔成績向上のためには移植自家静脈グラフトの晩期閉塞の発生解明が必要である。我々はこれ迄、移植自家静脈の晩期閉塞は末梢runーoff不良例に多発し、その原因として末梢runーoff不良のいわゆる異常血流条件下における移植自家静脈内皮細胞の機能異常とこれに伴なう壁平滑筋細胞の能動的増殖の結果形成される内膜肥厚性病変が重要であることを臨床的ならびに実験的検討より見出してきた。血行力学的異常が内皮細胞および平滑筋細胞にどのような影響を及ぼしているかについての本研究の初年度に得られた成果は以下の如くである。 1)末梢runoffの不良な血行力学的条件(我々の波形分類のII型)を犬後肢に作成し、これら異常血流条件下と対側の正常血流条件下の大腿動脈内皮細胞のプロスタサイクリン(PGI_2)産生能をEx vivo perfusion法により比較した。その結果異常血流条件下においては正常血流条件下に比し、著明にPGI_2産生能の低下が見られ、内皮細胞においては血流条件の変化によりPGI_2産生能が変化していることが示唆された。2)同様の犬後肢poorrunoffモデルを用い自家静脈移植を行ない、移植後1、2、4週目の内皮細胞よりのPGI_2産生能を対側の正常血流条件下のそれと比較した結果、異常血流条件下では移植自家静脈よりのPGI_2産生能は著明に低下しており、特に移植後2週目以降に正常血流条件下と比べ有意の低下がみられ、異常血流条件下における移植自家静脈バイパスグラフトの開存率の低下にPGI_2産生能の低下が重要な役割を担っている可能性が示唆された。
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