研究概要 |
広範な下肢動脈閉塞性病変に起因する末梢runoff不良な条件下での下肢血行再建術の成績は未だ満足すべきものとは言い難い。我々はこれまでの下肢血行再建術症例の血行力学的解析より、末梢runoff不良の本体は血管壁壁面煎断応力(wall shear stress)の低下であることを見いだし、本研究ではこのようなshear stress低下状態における血管壁内皮細胞と平滑筋細胞の機能変化について検討しているところであり、1年目の結果としては、低shear stress条件下では、下肢動脈内皮細胞のプロスタサイクリン(PGI_2)産生能の低下がみられるという知見を得ている(Circ Res).2年目の今年度は強力な抗血小板凝集作用と血管弛緩作用を有する内皮由来血管弛緩因子(Endothelium derived relaxing factor,EDRF)の産生能と低shear stressとの相関について検討を加えた。その結果、1)低shear stress条件下の大腿動脈内皮細胞ではacetylcholind(ACH)に対するEDRFの反応は保たれているものの、adenosine diphosphate(ADP)に対するEDRFの放出反応が低下している。2)大腿動脈に移植した自家静脈内皮細胞では移植後3日目よりすでにACHに対するEDRFの反応の低下が見られ、低shear stress条件下ではADPやThrombinを介するEDRF産生の低下がみられるなどの知見を得ている。これらの実験的事実は、血管内皮細胞にはshear stressの多寡によりPGI_2やEDRFなどの生理活性物質の産生放出を調節している機序が存在することを推定させ、血行再建術後末梢runoffの不良な症例ではこのような機能低下が血栓性閉塞をおこしやすい原因と考えられた。
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