研究概要 |
外科的疾患を有する胎児肺低形成の動物実験モデルとしてラット(Spraque‐Dawley種)を用い,横隔膜形成不全や肺低形成,心奇形,腎奇形等の催奇形作用を有する除草剤の成分であるNitrofen(2,4‐dichloro‐4'nitrodiphenylether)を投与し、横隔膜ヘルニアの作成を試みている。昨年度までは,妊娠11日目にオリーブオイル3〜5mlに溶解したNitrofen100mg/kgを胃内に注入し、妊娠20日目にエチルエーテルにて母ラットをsacrificeした後,開腹し胎仔を回収した。この結果,胎仔の約4割で横隔膜の右側後方に欠損を認め,同部より肝の一部が胸腔内に脱出していたが、肺を圧迫するような十分な臓器の脱出は見られなかった。このため,今年度からNitrofenの投与量を250mg/kgに増量した上,投与時期を妊娠9日目に変更し、同様の作成実験を行なった。この結果,より高率(約6割)に横隔膜ヘルニアの発現をみ,投与量,投与時期がこの奇形の発現に微妙に影響を与えていた。 従来,横隔膜ヘルニアに於ける肺低形成は,胸腔内を復腔内臓器が占めて正常の肺の発育が妨げられるために起こるとされている。しかし,このNitrofen投与による横隔膜ヘルニア作成実験では,横隔膜原基,肺原基そのものを障害して,肺低形成が起きてきている可能性が示唆される。一方,近年免疫組織化学の分野で,組織構築が変化する時にその間質に陽性となる細胞外物質糖蛋白質であるテネーシンが注目されている。Nitrofen投与ラットの肺で,何等かの変化が起きていないかを検討したが,特に免疫組織学的に陽性とはならなかった。これは,胎仔の回収時期,組織感受性の問題から一概には言えないが,Nitrofenの障害部位及び時期が横隔膜原基,肺原基そのものであれば,組織が構築される以前の問題であり,この意味から,テネーシンは陰性となると思われる。
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