研究概要 |
胎児肺低形成の動物実験モデルを作成し,低形成肺を病理学的に検討するために,妊娠ラットに,横隔膜形成不全や肺低形成,心奇形,腎奇形等の催奇形作用を有する除草剤の成分であるNitrofen(2,4-dichloro-4'nitrodiphenyl ether)を投与した。実験初期においては妊娠11日目にNitrofenをオリーブ油3〜5mlに溶解し,母獣体重当たり100mg/kgを,後期では妊娠9日目に250mg/kgを,胃管にて胃内に強制注入した。妊娠20日目に胎仔を回収し,体重,ヘルニアの有無,ヘルニアの位置,ヘルニア内容を確認した。標本はHE染色及び免疫組織染色を行った。 この結果,妊娠11日目,100mg/kg投与群では36.9%にヘルニアを認めたがヘルニア側は右側のみで脱出臓器は肝の一部であった。妊娠9日目,250mg/kg投与群では55%にヘルニアを認め,ヘルニア側は右56%,左38%,両側6%,脱出臓器は肝,胃,小腸であった。 Tenascinを用いた免疫組織染色では,1次血清濃度を100,500,1000倍,また,1次血清のインキュベート時間を1時間,overnightで行ったがcontrol群との間に有為差はみられなかった。 今回の作成実験から,Nitrofenの投与時間,投与量がCDHの発現率,ヘルニア側に密接に関連していることが解った。 近年免疫組織化学の分野で,組織構築が変化する時にその間質に陽性となる細胞外物質の糖蛋白質であるTenascinが注目されている。もし,Nitrofenが発達過程の肺組織に何等かの障害を起こし,それに対して生体反応が発現しているならば,Tenascinがラットの肺で,発現する可能性が在り,この免疫組織染色を試みた。しかし免疫組織学的に陽性とはならなかった。今後の問題として,surfactantや肺の内分泌器官としての面からの検討が必要であると思われる。
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