Long Evansラットから分離されたLECラットは生後4ケ月令で黄疳を主症状とした急性肝炎を自然発症し、その内半数は死亡する。生き残った動物は慢性肝炎、胆管線維症を最終的に肝癌を発症する。 LECラットの急性肝炎は常染色体の劣性遺伝様式で起こり、何らかの代謝異常による可能性が考えられていた。最近、我々はLECラットの肝臓中に銅が蓄積し、血清中の銅及びセルロプラスミン含量の低下を見出した。LECラットの肝組織には生後2日令より銅が蓄積し始め、肝炎発症直前の3ケ月令でピ-クに達する。この事実はLECラットの肝炎発症原因が先天性銅代謝異常によることを示している。ヒトにおける銅代謝異常を示す疾患としてはウィルソン病が知られており、肝炎、肝硬変及び肝癌に至る例が報告されている。銅の異常蓄積と肝癌発生との関連は充分には明らかにされていないが、蛋白と結合していない銅(自由銅)が活性酸素の産生を引き起こし、肝細胞のDNAを傷害することが明らかとなっている。銅代謝異常にもとづく活性酸素の産生が持続的な肝細胞の脱落壊死をひき起こす一方で、肝細胞の再生の行なわれる。このような過程がくり返されることによって、肝癌の発生が起こるものと考えられる。
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