研究概要 |
昨年度までの検討においては、経門脈的に移植されたラットAH60C癌細胞の肝転移阻止効果は、5FUの門脈内持続投与が最も有効な事を明らかにしたが、その問題点として、1)移植3日目以後の経門脈的投与は無効なこと。2)経門脈的治療は全身に及ぼす影響は少いが、肝局所のNK活性を阻害すること、が判明した。したがって今年度は腫瘍の血流支配について検討し、次のことが明らかとなった。 方法:体重200g前後の雄性ラットを用い、AH60C癌細胞を4×10^6/0.2ml腸間膜静脈より注入した。注入後3,4,5,6,7,8及び9日目に肝動脈あるいは門脈(肝動脈温存あるいは結紮)よりBrdU(20mg1kg1.2hγ)を投与した。ラットを麻酔下犠孔せしめ、肝を摘出し、BrdUの免疫染色を行った。 結果:1)経門脈的投与で肝動脈を結紮した群:移植3日目以前、あるいは径600μm以下の腫瘍は全体が染色された。しかしこれ以上のものでは、表面から300μm以上深部の細胞は染色されなかった。2)経門脈的投与で肝動脈を温存したもの:腫瘍表面とともに深部までの染色を認めたが、染色性が弱いものも存在した。3)経肝動脈投与群:腫瘍の大きさにかかわらず、腫瘍の全体に染色性を認めた。 結論:以上の結果から純粋に門脈からだけの血流はたかだか腫瘍の表層より300μmしか栄養しないことが判明した。逆に肝動脈経由では300μm以下の小腫瘍にもsinusoidをへて栄養されることが示された。したがって手術時の操作による癌細胞の門脈内逸脱肝着床に対しては、経門脈的薬剤投与は全身に与える影響も少く極て有効であるが、肝転移をすでに形成したものでは600μm程度の小さな腫瘍においても、経門脈的治療の有効性は少いものと考えられた。
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