1.我々はまず、犬において特異的ラジオイムノアッサイ法による血漿PeptideーYY(PYY)の測定系を確立した。成犬6頭の混合食摂取試験で、基礎値150±8pg/mlから、15分値245±15pg/mlと有意な上昇がみられ、60分以降には一定値に達した。次に脂肪酸、アミノ酸、ブドウ糖の各要素に対するPYYの分泌反応を比較したが、十二指腸内脂肪酸投与では血中PYYは上昇したが、アミノ酸、ブドウ糖の投与ではPYYの上昇はみられなかった。結腸内投与では、生理食塩水、脂肪酸、アミノ酸、ブドウ糖の投与で、血中PYYは有意に上昇した。これらの事より、結腸内に存在するPYY含有細胞の直接刺激のみならず、上部消化管刺激を介する間接刺激がPYY分泌に関与していると考えられる。PYY分泌にはこの両者のメカニズムがあると思われる。 2.犬において、脂肪酸の結腸内投与が、胃酸分泌とガストリン分泌に及ぼす影響を調べた。Peptone食刺激による胃酸分泌は、生理食塩水の結腸内投与下では、20.1±1.6meq/hrであるが、オレイン酸を結腸内に投与(24mmol/hr)すると、14.2±2.6meq/hrと有意に抑制された。この際血中ガストリン値は両者間で差はなかったが、Integrated PYYは、生食投与下で3.1±0.7ng(60ー120)min/mlであり、オレイン酸投与下では、6.9±2.8ng(60ー120)min/mlと有意に上昇した。以上より、脂肪酸の結腸内投与による胃酸分泌抑制は、ガストリンの分泌抑制によるものではなく、おそらくPYYの分泌増加によるものと考えられた。 3.犬において胆汁酸の結腸内投与によるPYY分泌と、膵外分泌の抑制効果の有無を調べた。胆汁酸の結腸内投与により内因性PYYが分泌され、CCKで刺激された膵外分泌が抑制されることが同時に観察され、内因性PYYの膵外分泌抑制作用が示唆された。 4.次にヒトにおいて結腸切除前後における血中PYY値の変動の比較ならびに内因性PYYの胃酸分泌や膵外分泌に及ぼす影響を研究するため臨床例の試料を採集、保存し、ヒトにおけるPYYの測定を試みた。しかし、抗体の種類試料の抽出法等の各種条件について検討したが現時点では成功していない。ヒトにおいて血中PYYを測定し得たという報告は世界的にもほとんど認められないのが現状である。さらに新しい抗体を開発することなどが必要である。
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