1.自家静脈の内面性状と再内皮細胞化 自家静脈は、移植前のグラフト調整過程で内皮細胞の半分以上を失いその下層組織が露出される。動脈への移植後は48時間で更にその大部分が血流にwash outされて脱落する。内皮細胞脱落後の自家静脈内面を電顕的にみると内膜コラ-ゲン、基質、散在する平滑筋細胞などから成り内皮細胞の脱落にともない基底膜も一緒に脱落し、その残存所見は電顕的にとらえられなかった。静脈弁部は内皮細胞が温存されやすく、5〜7日後に観察される内皮細胞再生の初期像は、弁部から始まっていることが確認された。このことは弁部の内皮細胞が物理、化学的障害に強いことを推察させるものであり、電顕的には細胞間結合が密で、基底膜が薄いことが示された。自家静脈の限局性内膜肥厚部は内皮細胞化が阻害されているが、基底膜を越える内面の機械的障害では3週後には再内皮細胞化が完了し、内膜肥厚は発生しなかった。一方トリプシンによる化学的内面損傷では急性血栓閉塞する例が多くみられた。 2.自家静脈の早期開存性 内膜コラ-ゲンと基質より成る内面が抗血栓性を発揮していることは事実である。内皮細胞が脱落した後の自家静脈片のプロスラサイクリン(PG)分泌能をみるとアラキドン酸で刺激した場合極めて旺盛に分泌がみられ、非内皮細胞由来PGが抗血栓性に関与していることが推察された。 3.結 論 内皮細胞化の阻害と限局性内膜肥厚が密接に関連していることは明らかであるが、再内皮細胞化と基底膜の残存とは関連がなかった。しかしその検討の過程で自家静脈グラフトの再内皮細胞化の過程は、自家コラ-ゲンの細胞親和性が再内皮細胞化を促進し、その間のコラ-ゲンの血栓性は平滑筋細胞由来PGが阻止するという機序を推察する所見を得た。
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