研究概要 |
本研究では,心臓外科領域における開心術中の心筋保護という臨床的課題を背景にして冠再潅流時における心筋障害(再潅流障害)の病態の把握と,これに対する具体的対策の確立を目的としている。平成2年度においては,実験系の設立の後,再潅流液中無機イオン(特に,H^+,Ca^<2+>,Mg^<2+>)の再潅流障害への影響を検討した。 (1)設備に関する状況:ラット摘出心潅流モデルを確立し,再現性のあるデ-タを得る段階にある。生理学的検討の一貫として,心機能を測定しており,交付された補助金にて予定どうり,(1)血圧トランスデュ-サ-1ケ(310千円)と(2)電磁流量計用プロ-ブ1ケ(150千円)を購入し,実験に使用している。 (2)研究の実績:〔実験A〕再潅流液中水素イオン濃度(pH)の影響について。再潅流液中緩衝剤を増減させることによって,pHを6.8,7.4,7.8の3段階に変化させたときの再潅流障害の程度は,アシド-シスの6.8群において有意に軽減されることを明らかにし得た。この結果の一部は,第65回中四国外科学会総会(平成2年9月,岡山)にて発表した。〔実験B〕再潅流液中Ca^<2+>とMg^<2+>の相互関連性について。再潅流液中Mg^<2+>濃度を1.2,4.0,8.0,12.0,16.0mMに変化させた時,それぞれのMg^<2+>濃度に対して再潅流障害を最小に軽減するCa^<2+>濃度(至適Ca^<2+>濃度)が存在し,これらCa^<2+>,Mg^<2+>濃度には,数量的関係が存在する可能性があることを明らかにした。この結果は、第27回日本臨床生理学会総会(平成2年10月,長崎)にて発表した。 (3)今後の展開:以上,本年度の結果をもとに,再潅流障害の発生機序の解明を目指して,他の無機イオン(具体的には,K^+およびNa^+)との関連性の検討を進める予定である。また,本邦での心臓移植の臨床応用に向けて,心保存に際しての至適保存条件についても実験的研究を展開する予定である。
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