研究概要 |
心臓外科領域において、術中の虚血再潅流障害の予防は手術成績を左右する重要な要因の一つである。この虚血再潅流障害には、Caイオン動態の変化がその中心的役割を果たしていることが明らかとされている。本研究においては、再潅流時におけるCaイオン動態の制御機構の病態を把握し、心筋障害の発生機序を解明することを目的とし、平成2年度よりラット摘出心潅流装置を用い再冠潅流液中のイオン(Ca,Mg,Na,H)が虚血後心機能に与える影響を実験的に検討してきた。 (実験1)再潅流液中のCaと、生理学的Ca拮抗物質であるMgとの濃度相互依存性に関して、再潅流液中Mg濃度を1.2,4.0,8.0,12.0,16.0mMと変化させその至適Ca濃度;0.5,0.9,1.0,1.1,1.3mMを求め、再潅流液中のMg,Ca濃度相互関係を明らかにした。(実験2)再潅流液中水素イオン濃度(pH)が虚血後心機能に及ぼす影響について、再潅流液中のpHを6.8,7.4,7.8の3段階に変化させ検討した結果、pH6.8で再潅流障害が有意に軽減され、再潅流液中pHの違いが虚血再潅流後の心機能回復に影響を及ぼすことを明らかにした。 (実験3)再潅流液中Na,Ca濃度の影響について検討を行った。1)再潅流液中Na:135,75,25mM,Ca:1.5,1.0,0.5mMの各々の組合せによる9群において再潅流障害を評価した結果、Na濃度依存性に軽減し、Ca濃度依存性に増悪した。2)NaーCa交換機構阻害剤であるamirolide(1.0〜100μM)を再潅流液中に添加し虚血後心機能回復に及ぼす影響を検討した結果、心機能回復は濃度依存性に改善した。1)2)の結果より、再潅流障害発生機構として、NaーCa交換機構の関与が示唆され、高Naー低Caが再潅流障害の軽減に有利であることを明らかとした。以上、再潅流液中のCa,Mg相互関係、再潅流液中pHの心機能回復に及ぼす影響、NaーCa交換機構の再潅流障害発生への関与を明らかにした。
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