本研究は従来の培地制御による培養システムとは異なり、培養基材表面にin vivoにおける血管形成の細胞構築に対応させた微細構造を種々の官能基を配置することにより分子設計し、基材表面と細胞膜との特異的相互作用により血管内皮細胞の増殖、機能維持および自己組織化による管腔形成を制御できる新しい血管内皮細胞培養床の開発を目的とた。 カチオンーアニオンの双方を備えた高分子両性電解質であるポリ(スチレンーメタクリル酸ジエチルアミノエチル)ランダム共重合体、ポリ(スチレンークロロメチルスチレンーpスチレンスルフォナトリウム)三元共重合体を合成し、ガラス表面にこれらのポリマ-をキャストした。また、スチレン・クロロメチルスチレン共重合体にスルフォン酸基、水酸基、四級アンモニウム塩をそれぞれ固一液界面反応で導入したポリスチレン誘導体を合成した。これらの官能基を導入した高分子表面の特性を光電子分光法(XPS)、動的接触角測定法により解析した。これらの高分子表面上でヒト血管内皮細胞を培養し、表面特性と細胞の接着性、増殖性、形態変化およびプロスタサイクリン産生能との相関を調べた。 イオン基導入表面は高い細胞接着率を示し、形態も安定しており、細胞の初期接着には三級化アミンやスルフォン酸基などのイオン基の存在が有効であることが示唆された。また細胞の増殖能およびプロスタサイクリン産生能は導入したイオン基の種類とその導入量に大きく依存し、細胞増殖性を促進する表面ほどプロスタサイクリン産生を促進した。しかし、それぞれの官能基が初期細胞接着に及ぼす影響と細胞増殖能に与える影響とは異なることが示唆された。
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