従来、臓器保存液はK^+イオンを豊富に含んだ細胞内液組成のものが主流であったが、特に肺保存の分野においては、K^+イオン濃度の低い細胞外液組成の保存液が多く用いられ、細胞内液組成との比較もなされている。しかるに、これらの比較では陽イオン以外の因子(緩衝能、浸透圧、膠質浸透圧等)の違いが必ずしも考慮に入れられていない場合も多い。そこでわれわれは肺保存に及ぼすK^+イオン濃度の影響を調べるために、新たに4種の保存液を作製し、ウィスターラット摘出肺を用いて、7度、24時間の冷却浸漬保存を行った。保存液はNa^+イオン155mmo1、K^+イオン0mmol/lのI液、それぞれ150.5のII液、20.135のIII液、0.155のIV液で、陰イオンはいずれもH_2PO_4^-が15mmol/l、HPO_4^<2->が70mmol/lで、これにグルコース3g/dlを加え、いずれも浸透圧349mOsm/l、は37度で7.40であった。保存肺の評価には、当所はNMR Spectroscopyを用いる予定であったが、使用できず、われわれの開発したラット肺換気灌流モデルを用いた。これは3%ウシアルブミンを含んだPerfluorochemicalを灌流液とし、評価肺にて酸素加された灌流液を人工肺にて脱酸素化するもので、肺保存前後に37度で20分間ずつの定圧換気灌流を行い、肺動脈灌流量、一回換気量、肺静脈酸素分圧の保存前後の回復率、及び肺湿乾重量比を、各保存液群で比較した。結果は、肺動脈灌流量回復率ではK^+5mmol/lのII液が高い回復率を示したが、一回換気量、肺静脈酸素分圧では有意差はなく、温乾重量比は高カリウムのIII、IV液で低く保たれ、この実験系からは、K^+イオン濃度は保存肺機能に大きな影響を及ぼさないものと考えられた。
|