研究概要 |
悪性脳腫瘍の化学療法に多用されるニトロソウレア剤がDNA損傷薬剤であることから,効果的な抗癌剤の選択基準についてDNA損傷回復酵素O^6ーmethylguanineーDNA methyltransferase(O^6ーMT)と抗癌剤感受性との関連を検討した.脳腫瘍として対数増殖期の9L細胞とC6細胞を用い,O^6ーMT活性を有するMer^+のHeLa S3細胞と比較した.O^6ーMT活性は9L細胞が0.08pmol/mgと最も低く,C6細胞が0.17pmol/mg,HeLa S3細胞が0.52pmol/mgであった.ニトロソウレア剤に対する感受性はコロニ-形成法の10%生存率量(D_<10>)で9L細胞が15μg,C6細胞が60μg,HeLa S3細胞が180μgであり,MCNUに対してもそれぞれ,20μg,60μg,240μgの順であった.ヌ-ドマウス背皮下移植9L腫瘍は薬剤処理後に腫瘍体積が減少し,ACNUとMCNU25mg/kgによる腫瘍消失率はそれぞれ33%と20%で,ACNU50mg/kgで70%消失した.一方,C6細胞の体積は一時的に減少し,HeLa S3細胞の減少も僅かであった.In vitroとin vivoにおいてO^6ーMT活性の低い9L細胞はニトロソウレア剤に感受性があるのに対して,高活性のHeLa S3では感受性が低かった.DNA損傷回復酵素の基質であるO^6ーmethylguanine(O^6ーMeG)による耐性の変動はACNU耐性9L/AC細胞を用いて検討した.O^6ーMeGは1〜3mM濃度で)L親細胞と9L/AC細胞のいずれに対しても殺細胞効果はほぼ一定であった.O^6ーMeG2mMで2時間前処理した9L細胞のACNU用量生存率はO^6ーMeG無処理とほぼ同じであった.一方,9L/AC細胞では生存率の低下が著しく,ACNU12μMで1/3,24μMで1/50,36μMで1/200以下であり,ACNU耐性が著減した.脳腫瘍細胞と移植脳腫瘍においてニトロソウレア剤感受性はDNA損傷回復能と密接に関連しており,O^6ーMT活性はニトロソウレア剤感受性の指標となりうる.ACNUの耐性克服に損傷回復酵素の基質であるO^6ーMeGの前処理が有効であり,酵素の不活性化によるニトロソウレア剤の治療効果増強が期待される.
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