研究概要 |
脳浮腫モデルを作成し浮腫脳における粘弾性特性と脳循環動態の変化を検討した。実験には成猫を用い、浮腫脳および正常部において脳組織圧、脳血流(CBF)、および脳血液量(CBV)を経時的に測定した。また脳室内に留置したカテ-テルから定期的にきわめて少量の髄液をbolusにて注入あるいは排出し頭蓋内の環境圧に変動を与えた時の髄液圧の変化と組織圧の変化を計測し、この比PVIーratio(PPV:Pressure volume index)の変化を観察した。また浮腫作成後、マンニト-ルを静脈内に投与しその作用機序を検討した。 浮腫の進行にしたがいCBFは軽度で一過性の低下を示した。CBVは持続的に低下した。浮腫形成終了により浮腫水の供給圧が消失すると、CBF、CBVともに早期に正常化した。PVIーratioは、コントロ-ルでは1.2であったが、浮腫脳では低値(1.0)であった。マンニト-ル投与によりCBF,CBVともに増加を認めたが、浮腫脳では正常脳より常に低い増加率であった。PVIーratioは浮腫脳で低下し、マンニト-ル投与により増加(約1.3)した。脳組織内への水分の貯留そのものはCBFを減少させないが、浮腫水の供給圧の存在は、CBF,CBVに影響を与えることが明らかとなった。マンニト-ルは頭蓋内圧を減少させる際に脳血管床を増加させ、このことが頭追内の圧容積関係の改善に意味を持つと考えられた。PVIーratioは理論的には、頭蓋内全体のコンプライアンスに影響され、髄液圧変化の組織圧変化への反映率を示している。この値は脳組織の病態により変化し組織性状、特にその粘弾性因子が関与していると考えられる。今後、より感度の高いセンサ-を用いれば、組織内の微量の圧環境の変化をとらえることができ、病態の理解や薬剤効果の検討がより詳細に可能になると考えられる。
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