研究概要 |
1.ラットを42〜43℃の恒温水槽に入れ、直腸温を42.0〜42.5℃に15分間保ち、熱負荷とした。熱負荷を加えた一定時間後にラットを屠殺し、速やかに脳を取り出し,凍結したのち、海馬を取り出し、immunoblotting (Western blotting)によりheat shock protein 70(HSP70)の発現を観際した。15分間の熱負荷を加えたラットの海馬では、熱負荷の90分後、8時間後、および24時間後にHSP70の発現が認められ、ラット脳において熱負荷により熱ショック蛋白質が発現することが確かめられた。 2.ラットを用いて両側総頸動脈および両側椎骨動脈を閉塞する4ーvessel occlusionにより脳虚血を作成し、一定時間の脳虚血後に血流を再開した。血流再開24時間後にラット脳組識を潅流固定し、免疫組識学的方法によりHSP70の発現を観察した。血流再開1週後に脳組識を取り出し病理組識学的検討を行った。2分間の脳虚血では、HSP70の発現はみられなかった。8分間の脳虚血では、海馬、大脳皮質でHSP70の発現が認められた。15分間の脳虚血では海馬CAI領域ではHSP70は発現しなかったが、大脳皮質ではHSP70の発現が認められた。30分間の脳虚血では、海馬CAI,大脳皮質共にHSP70の発現は認められなかった。病理組識学的検討では、2および8分間の脳虚血では、海馬、大脳皮質ともに虚血性変化はみられなかった。15日分の脳虚血では海馬CAl領域の虚血性神経細胞障害がみられたが、大脳皮質では明らかな神経細胞障害はみられなかった。30分間の脳虚血では、海馬CAI領域、大脳皮質ともに虚血性神経細胞障害が認められた。このように、神経細胞障害をきたさない程度の短時間の脳虚血では、HSP70が発現するのに対して、虚血性神経細胞をきたす場合には、HSP70の発現がみられなかった。平成2年度の結果からは、HSP70は神経細胞障害の指標となり得ることが示唆された。
|