平成2年度から3年度にかけて、実験的パ-キンソン病に対する頚部交感神経節の脳内移植の効果と安全性について研究した。平成2年度はサルにパ-キンソン病を引き起こすMPTPを投与した後、自家頸部交感神経節を尾状核に移植し行動の変化を検討した。MPTPを静脈内投与するとサルは無動・筋固縮を主体としたパ-キンソン徴候を示した。MPTP投与で運動量が減少した7匹のサルに神経節を移植したところ、6匹のサルは2週目頃から運動量が増加し、筋固縮も減退した。移植後4週目には運動はほぼ正常化し筋固縮も消失した。しかし移植を受けなかったサル(2匹)や神経節代わりに筋肉片の移植を受けたサル(1匹)は症状の改善を示さず死亡した。カテコラミン組織蛍光法による移植部の観察では、症状の改善を示した6匹のサル脳内で移植神経節細胞はよく生着し、多くのカテコラミン線維を脳内に送り込んでいた。平成3年度は移植の長期的効果と、症状改善の機序について検討した。移植後症状の改善を示したサルは、その後もパ-キンソン症状の再発を示さず、また異常行動や痙攣等重篤な副作用を示さなかかった。移植された神経節細胞も2年以上脳内で生存していることが組織蛍光法で確認された。移植による症状改善の機序を知る目的で、、脳脊髄液中のド-パミン代謝産物であるホモバニリン酸(HVA)濃度を高速液体クロマトグラフィ-で測定した。MPTP投与後、無動を示したサル脳脊髄液中HVA濃度は徐々に減少したが、移植後一旦急激に上昇し、再び減少した。その後症状の改善が観察される4週目には再びHVA濃度は上昇した。このことは移植された交感神経節細胞からド-パミンが脳内に放出され、症状の改善につながったことを示唆している。以上の実験結果は頸部交感神経節の脳内移植はパ-キンソン病に有効で、なおかつ安全であることを証明し、本移植法が臨床応用可能である事を示唆している。
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