研究概要 |
骨肉腫の予後不良の原因として、肺転移の存在が第一に考えられる。この肺転移を抑制できれば、骨肉腫患者の予後を改善できると考える。そこで我々は継代している骨肉腫実験系(ハムスタ-)の高肺転移株を用いて肺転移機序仮説を立て、さらにその一部をブロックする機序を挿入することにより肺転移を抑制することを企てた。すなわち、肺転移成立機序を細胞接着因子(フィブロネクチン)理論の導入により組み立て、フィブロネクチン・レセプタ-を競合的にブロックするアミノ酸(RGD)を含む合成ペプチドを投与することにより、転移細胞の肺での接着、さらには生着を阻害させることを計画・実行した。評価は肺転移巣での結節数を算定することにより行なった。結果はペプチド投与群の方が非投与群に比して、有意に肺転移が抑制されていた。この知見は第23回日本整形外科学会骨軟部腫瘍学術集会(平成2年7月19日,大阪)において、『ハムスタ-骨肉腫の肺転移抑制法について』(中川琢三,横山 巖,河野秀樹,吉田明史ほか)と題して発表した。しかし、このRGDアミノ酸を含む合成ペプチドが果たしてフィブロネクチンとの競合物質であるという確証がまだ得られていないのが学術上の問題点であった。そこで合成したRGDアミノ酸を含むペプチドがフィブロネクチンとの競合物質であるということを証明すべく、さらに1段階研究を進めフィブロネクチンのアミノ酸組成に類似したより長いアミノ酸組成(GRGDSPC)のペプチドとアルブミンの複合体を合成して治療実験を行なった。結果としてはペプチドを投与して治療した群の方が非投与群に比して、肺転移巣の結節数でみるかぎり、有意に抑制されていた。予想通りの新知見を得た。これは第5回日本整形外科学会基礎学術集会(平成2年10月4日,神戸)において『ハムスタ-骨肉腫細胞の肺転移抑制法について 第2報』(中川琢三,横山 巖,河野秀樹,吉田明史ほか)として発表した。
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