今回の凍結走査電子顕微鏡によりブタの膝関節の関節軟骨の実験で得られた新たな知見のうち、最も特筆すべきは、関節軟骨表層が、superficial tangential zone(以下STZ)と、その上に存在し関節表面を覆う層とからなっていることをとらえたことである。STZは、通常型走査電子顕微鏡によって、関節表面に対して接線方向のコラ-ゲン線維の配列をなす層として観察され、従来から軟骨表層とほぼ同義語として用いられてきた。今回の凍結走査電子顕微鏡による非荷重状態の関節軟骨での観察で、STZと明暸な境界をなし、STZの上を覆う層が明らかになった。この層の厚さと形態は、関節内の部位、水分の含有状態、個体によって異なり、観察した40試料での厚さは2〜23μmであった。このSTZの上に存在し関節表面を覆う層を、新たに『最表層』と命名した。関節軟骨表層の力学的特性に関する実験では、直径が3.5mmの平型断端のindenterを用いて1.17MPaの圧を異なる時間(2秒、1分、2分間)負荷し、軟骨の変形を凍結走査電子顕微鏡で観察した。lndenter直下では、『最表層』は2秒間の荷重で0.6〜5μm厚に圧縮され、1分時と2分時にもこれとほぼ同じ厚さであった。lndenter直下のSTZおよび中下層では、コラ-ゲン線維網の圧縮変形が時間とともに表面に近い部分から深部へと進行した。lndenter周辺部では、『最表層』は、2秒時で170〜230μm厚に肥厚し、1分時と2分時には70〜400μmであった。lndenter周辺部のSTZは、組織像上の肥厚を示したが、『最表層』と比べ変化は著しく少なかった。今回の実験により、軟骨表層を『最表層』とSTZに区別できた。軟骨表層の荷重負荷に対して2秒以内にその厚さを著しく変化させる力学的特性は、主として『最表層』の特性によることが明らかになった。 来年度は、関節軟骨表層の構造とトポグラフィ-的分布に関して研究する予定である。
|