研究概要 |
神経成長因子は化学構造および遺伝子構造が知られている唯一の神経栄養因子である。その機能が,神経系の巧妙な制御を受けている下部尿路における神経成長因子に関する研究報告は,ほとんど見受けられず,実験的に尿道に不完全閉塞を作成したラットの膀胱(閉塞膀胱)から,神経成長因子が分泌され,この物質が不安定膀胱の成因として関与する可能性が報告されているのみである。そこで,閉塞膀胱以外のものとして脊損膀胱を取り上げることとして,ラットを対象として脊髄損傷を作成し,その膀胱から神経成長因子が分泌されているかどうかについて検討を加えてきた。しかし,脊損後のラットの術後管理方法が十分とは言えず,脊損ショックから排尿ができなくなり,血尿,膀胱過伸展および膀胱破裂などが起こることなどから,1週間以上生存させることが非常にむずかしく,1週間以上の経過を追うことは不可能であった。 また,神経成長因子の測定方法自体もいまだ完成の域に達していないこともあり,断定はできないが,脊損1週間後までの膀胱から測定された神経成長因子の成績には一定の傾向が認められていないのが現状である。したがって,早急に神経成長因子の測定方法を完全なものとすることと,脊損後のラット術後管理方法を適切なものとする必要がある。
|