【目的・方法】我々は副甲状腺腺腫が過形成とみなしうるsubtypeと癌とみなしうるsubtypeを含むと考え、副甲状腺腺腫の細分化を試みている。今年度、我々は癌遺伝子がヒト副甲状腺腺腫を細分化する指標になり得るかを調べる為に、腺腫組織内のcーerbB2癌遺伝子の増幅を分子生物学的に検討した。あわせて免疫組織学的に同遺伝子産物の局在を調べた。材料は原発性副甲状腺機能亢進症の診断で摘出された副甲状腺組織15例(腺腫13例、過形成1例、腺癌1例)である。cーerbB2の増幅は正常胎盤に比べて2倍以上の増幅があるか否かで判定した。免疫組織学的検討には遺伝子産物に対するモノクロ-ナル抗体を用いた。 【結果】erbB2遺伝子は腺癌(1例)と腺腫2例(全腺腫の15.4%)で4倍に増幅し、他の腺腫1例(全腺腫の7.7%)で2倍に増幅していた。同遺伝子産物は11例の腺腫中6例(54.5%)に発現した(うち3例は強陽性)。局在は腺腫細胞の細胞膜ならびに胞体の一部にみられた。腺腫2例はcーerbB2遺伝子の増幅も同遺伝子産物の発現も認められた。他の4腺腫は遺伝子産物の発現のみがみられ、遺伝子の増幅はみられなかった。また4倍の遺伝子増幅を示した腺腫1例には同遺伝子産物の発現がみられなかった。 【考察・まとめ】cーerbB2遺伝子はヒトの腺癌(乳癌、胃癌、膵癌)や移行上皮癌で増幅することが知られている。同遺伝子産物の免疫組織化学での発現率は文献的には17ー83%である。乳癌ではcーerbB2遺伝子の増幅と同遺伝子産物の発現の間には相関がみられているが、我々の症例では2例のみが一致した。1例では癌遺伝子増幅のみがみられたが、既往の子宮頚癌の影響があるのかもしれない。他の4例は遺伝子産物の発現のみがみられたが、この解釈は現在のところ不明である。今回の結果から、副甲状腺腺腫の一部は癌に近い性質を有すると考えられる。
|