平成2年度中にヒト正常副腎皮質細胞の層別分離培養を可能とする計画であったが、まず動物細胞で層別分離培養を施行した。しかしヒトの正常副腎皮質は、細胞培養が難しく、全層培養の方法の確立に努めた。 研究は平成2年4月より、動物細胞において副腎皮質の層別初代分離培養を施行した。2〜3歳の去勢雄ウシの副腎を使用し、まず髄質をピンセットではがすようにきれいに分離除去し、皮質を被膜を下にシャ-レに接するように置いて髄質に接する側の束網状帯組織を眼科用曲剪刀で薄くすくい上げるように分離した(被膜側に残った皮質が球状層)。この分離した細胞を各々細切後ディスパ-ゼで消化し、その後メッシュで濾過した。この濾過液を遠心し、得られたペレットをそれぞれ束網状層細胞と球状層として用いた。培養液は血清と抗生剤を含むHamFー12とDMEとの等量混合液を用い、35mm用ディシュを使用した。その結果副腎の球状層と束状層、網状層のおける形態学的、ホルモン学的相違を明らかにすることができた。すなわち束状層、網状層細胞は細胞質内に脂肪滴を放射状に有し多角形の細胞であり、球状層細胞は紡錘形に近い形を呈し、細胞質内の脂肪滴も少なかった。ホルモン学的には、アルドステロンとコルチゾ-ルを測定した。球状層細胞では、アルドステロンが培養3日目で430pg/ml/24h、7日目で260pg/ml/24hであった。それに比し束網状層では3日目12pg/ml、7日目32pg/mlと有意に低かった。しかしコルチゾ-ルには有意差はなかった。 ヒト副腎は腎癌の手術時に摘出したものを使用した。ヒト副腎皮質の器官培養、組織培養は行なわれているが、細胞培養は確立した方法がなく、細胞レベルの増殖、分化を調べるために好条件で培養できる方法の確立に努めた。単層培養継代培養を施行したが、現在まで良好な増殖能、分化能を示す培養法は確立はできていない。
|