核上型脊髄損傷時にみられる排尿筋・括約筋非協調運動(DSD)について、その発生メカニズムと薬剤の脊髄内持続投与による新治療法を検討した。 ウサギの脊損モデルにおいて、急性期の膀胱無活動にはおもにエンケファリンが関与していることが明らかとなった。一方、慢性期に出現するDSDに対しては、GABA-antagonistであるピクロトキシンやファクロフェンが何の効果も示さず、内因性GABAによる抑制の欠如がこの病態を形成していると推定された。 GABA-agonistのムシモールやバクロフェンの脊髄内投与はDSDを共に抑制したが、特にGABA-Bagonistのバクロフェンの方が優れた抑制効果を示し、0.01mgの低容量でDSDを完全に消失させた。したがって、以下の持続投与実験には、バクロフェンを用いて検討した。 DSD発生ウサギを対象に、埋め込みミニポンプによるバクロフェンの持続脊髄内投与の効果を評価した。バクロフェン注入条件が1Mg/hrの群では、DSD抑制効果が2週目までしかみられなかった。5Mg/hの群ではこの効果が8週から12週まで持続したが、それ以後はDSDが再発した。10Mg/hr投与群では、DSDの消失が12週から16週まで持続した。なお、この群の1羽のウサギでは、DSD抑制効果が40週まで認められた。以上より、5Mg/hrの条件で約3ヵ月間の治療効果を期待できることが明らかとなった。 重症DSD患者3例に対し、バクロフェン20Mgの骨髄内投与は、著明なDSD改善効果を示した。しかし、倫理的な問題から、ミニポンプ埋め込みによる検討は行なわなかった。
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