妊娠120ー130日の妊娠羊に全身麻酔を施し開腹後子宮を切開し胎仔を子宮外へ出し、胎仔血管へカニュレ-ションを行った。その後胎仔を開胸し右心耳にある洞房結節をホルマリンを注入する事により破壊し洞房ブロックを作製しようとした。しかし洞房結節の心筋が非常に薄く薬剤注入によりそれを破壊する事はできなかった。そこで洞房ブロック作製は断念し、心室中隔にホルマリンを注入する事による房室ブロック作製に切り替え、成功した。直ちにペ-スメ-カ-を右心室に装着し心博数を正常に保った。また大腿動脈、頚動脈に超音波血流プロ-ブを装着しそのまま子宮内へ戻し妊娠の継続をはかった。術中、術後の胎仔死亡もあり術後生理的状態まで回復し実験可能であったのは少数であったが以下のごとき結果を得た。1)羊胎仔心室中隔に10%ホルマリン10mlを注入する事により房室伝導系を破壊し房室ブロックを作製する事が出来た。このことは同時に装着した心電図の変化から確認した。2)房室伝導系の破壊により胎仔心博数は60/分と低下したが体外装着のペ-スメ-カ-により心博数を正常の180/分から段階的に減少させる事が可能であった。又逆に心拍数を増加させ頻脈の状態にする事も可能となった。3)胎仔心拍数を急激に低下させた後そのレベルを保つと、胎児血圧は特徴的な変化を示す事が明かとなった。すなわち胎児末梢血圧は心拍数減少によりサインカ-ブを描いて変化し、ある一定時間の経過とともにサインカ-ブを描く変化は消失する。しかし又それ以上に心拍数を減少させると再び血圧はサインカ-ブを描く変化を示した。この現象の生理学的意味はこれからの解析が必要であるが、胎児が心不全に陥り心拍数が減少した場合末梢ではその変化に適応し生体の血圧を維持しようとする機構がある事が示唆された。
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