研究概要 |
我々は、ヒト精子を特異的に凝集する抗体を免疫的不妊症の女性患者から分離、精製した。この抗体は射精ヒト精子の後アクロゾ-ム部に存在する分子量80KDaの蛋白と反応する(T.Haneji&S.S.Koide,andrologia,22,473ー477,1990)。又、我々はイムノアフィニテ-カラム、FPLCカラム等でこの反応蛋白を精製し、その性質を調べた。これらの結果の一部は現在印刷中である(T.Haneji et.al.,molecular andorology)。我々が発見したヒト抗精子抗体は免疫蛍光抗体法で射精ブタ精子アクロゾ-ムと強力に反応した。また精巣上体体部と尾部及び精管より得られた精子とも全く同様の反応を示した。ところが、精巣から得られた精細胞及び精子との反応は蛍光抗体法で認められなかった。さらに精巣上体頭部より得られた精子との反応も認められなかった。免疫ブロッティング法によって、この抗体は射精精子、精巣上体体部、尾部および精管より得られた精子蛋白と強力に反応しその分子量はいずれも45KDaであることが判明した。ところが精巣蛋白および精巣上体頭部精子蛋白との反応は全く認められなかった。また、この抗体とブタの肝臓、腎臓、心臓、血清及び骨格筋の蛋白との反応は見られなかった。この抗体はヒト精子のみならず、ブタ射精精子、精管内精子をも強力に凝集させる能力を持っていた。ブタ射精精子蛋白をConーAーセファロ-スカラムにアプライし、通過分画の蛋白を分離し、免疫ブロッティング法で検討しても反応陽性の蛋白は検出されなかった。結合した蛋白をメチ-ルマンノ-スで溶出すると反応陽性の蛋白が検出された。ところがこの溶出蛋白をSDSーPAGEで展開しクマジ-ブル-で染色しても相当するバンドは認められなかった。このことは反応蛋白はごく微量に存在することを意味する。反応抗原は糖蛋白であり、ある種のグリコシレ-ションにより抗原性を獲得したものと考えられる。この蛋白は精巣上体内での精子成熟過程に関係し、免疫的不妊症の原因に関係あると思われる。これらの結果の一部はすでに印刷公表した(T.Haneji et.al.,Journal of Experimental Zoology,259:109ー116,1991)。現在ブタ精子蛋白を分離精製してこの抗原に対するモノクロ-ナル抗体を作成中である。
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