[目的]分娩経過中の母体子宮動脈、臍帯動脈及び胎児中大脳動脈の血流動態の変化を特に子宮収縮との関連において検討した。[対象]東京大学産科婦人科で1990年8月から1992年2月までに分娩した母児に特に重大な合併症のない症例26例を対象とした。[方法]分娩1・2期に、陣痛発作時及び間欠時に超音波Bモード上のカラーフローマッピングを用いて母体子宮動脈、臍帯動脈、胎児中大脳動脈を描出し、パルスドップラ法にて血流を計測、波形を記録しそのRI(resisitance index)を算出、RIと子宮収縮の有無との関連を検討した。前期破水症例では内測陣痛計で子宮内圧を測定し子宮動脈血流との関連をみた。[結果]子宮動脈血流速度波形のRIは、陣痛間欠時の0.543±0.078に対し、陣痛発作時は0.797±0.120と有意に上昇した。前期破水症例での子宮内圧と子宮動脈血流速度波形RIの関係は直線回帰で相関係数r=0.86の有意な正の相関を示した。陣痛発作時と間欠時の臍帯動脈血流速度波形のRIはそれぞれ0.566±0.048と0.565±0.O48で有意差を認めなかった。陣痛発作時と間欠時の胎児中大脳動脈血流速度波形のRIはそれぞれ0.732±0.076と0.720±0.057で有意差を認めなかった。分娩1期に比し2期では臍帯動脈血流速度波形のRIが陣痛発作時0.582±0.044から0.553±0.044への間欠時0.577±0.045から0.553±0.042へ、ともに有意に低下した。[考察]子宮内圧が上昇すれば子宮動脈血流は減少すること、正常の分娩経過では個々の子宮収縮は臍帯動脈・胎児中大脳動脈血流に影響を与えないこと、臍帯動脈血流速度波形RIは分娩の進行と共に低下し、陣痛の繰り返しが胎児循環に影響を与えていることが示唆された。
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