ヒト胎盤絨毛細胞の機能的分化と胎盤血管系新生の調節因子に関する研究

1990 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 02670737
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 佐川 典正 京都大学, 医学部, 講師 (00162321)
• キーワード: 胎盤 / 絨毛細胞 / 血管内皮細胞 / 成長因子 / ヒト絨毛性ゴナドトロピン

研究概要

血管内皮細胞の培養系についてはヒト臍帯静脈から採取した内皮細胞が、vimentin、cytokeratin、第VIII因子等の免疫染色からほぼ純粋な内皮細胞であると考えられ、また、機能的にも内皮細胞の特徴であるendothelinの活発な産生が認められた。一方、trophoblastに関しては、hCGやhPLなど各種染色により約60〜70%のpurityが得られ、また培養上清中のhCG濃度を測定したところ、600〜1,000mIU/mlとhCGの産生能も保たれておりtrophoblastの培養系として実験に供することが可能であると考えられた。但し、30〜40%は血管内皮細胞とfibroblastが存在するので、これらの細胞の培養中の増殖を抑制する必要がある。血管内皮細胞については、低酸素濃度条件下で培養すると増殖が抑制されるがtrophoblastは抑制されないことが判明し、適度の低酸素濃度条件下で培養すれば更にtrophoblastの純度を増すことが可能であると思われた。一方、fibroblastは低酸素条件下でも増殖抑制がみられなかったので、Strausらの方法を参考にして、Lーvaline(ー),Dーvaline(+)の培養液を用いたところ完全ではないがその増殖が抑制された。今後は、これらを組み合わせた培養条件下で、trophoblastの機能的分化ならびに血管内皮細胞とtrophoblastの相互作用を検討する予定である。
一方、胎児仮死や胎児発育遅延症例では胎児血中のendothelinが上昇し、またナトリウム利尿ペプチドであるANPおよびBNPが著しく増加していることも明らかにした。これらの物質は胎児の循環を直接的に調節する作用だけでなく、胎盤での水分や電解質輸送を調節することによって間接的に胎児側での循環調節に寄与している可能性もある。この点を明らかにする目的で、絨毛細胞培養系を用いて、絨毛細胞に対するendothelin,ANPあるいはBNPの生理作用についても検討を加える予定である。

研究成果

• [文献書誌] Masaaki Hasegawa,et al.: "The Levels of Endothelin in the Human Amniotic Fluid at Various Stages of Pregnancy." Journal of Cardiovascular Pharmacology. (1991)
• [文献書誌] Yoshiyuki Ihara,et al.: "The Levels of Endothelin in the Maternal Blood and Cord Blood at Various Stages of Pregnancy." Journal of Cardiovascular Pharmacology. (1991)
• [文献書誌] Kousaku Nakamura,et al.: "The Sources and Biochemical Characteristics of Cobalaminーbinding Proteins in the Human Amniotic Fluid" American Journal of Obstetrics and Gynecology.
• [文献書誌] Hiroaki Itoh,et al.: "Brain Natriuretic Peptide Is Present in the Human Amniotic Fluid and Is Secreted from Amnion Cells" Endocrinology.
• [文献書誌] Hiroaki Itoh,et al.: "Remission and Exacerbation of Lupus Anticoagulant(LAC)ーRelation to pregnancy outcomeー" Fretility and Sterility.
• [文献書誌] Atsuhiko Okagaki,et al.: "The Effects of Low Oxygen Tension on the Trophoblast in Culture.ーProliferation and Production of hCGー" Placenta.
• [文献書誌] Masaaki Hasegawa,et al.: "The Levels of Endothelin in the Maternal Blood,Cord Blood and Amniotic Fluid at Various Stages of Pregnancy.“Hypertension in Pregnancy"" Eds.Cosmi,E.V.and Di Renzo,G.C.Monduzzi Editore,Bologna,Italy, (1991)
• [文献書誌] Yoshiyuki Ihara,et al.: "The Levels of Fibronectin in the Maternal Plasma and Amniotic Fluid of Patients with Pregnancy Induced Hypertension and Premature Rupture of the Membranes.“Hypertension in Pregnancy"" Eds.Cosmi,E.V.and Di Renzo,G.C.Monduzzi Editore,Bologna,Italy, (1991)