研究概要 |
ヒト臍帯静脈から採取した内皮細胞の培養系は、vimentin、cytokeratin、第VIII因子等の免疫染色からほぼ純粋な内皮細胞であると考えられ、機能的にもendothelin(ET)の活発な産生が認められた。一方、trophoblastの培養系は、Lーvaline(ー),Dーvaline(+)のmediumを用いると、hCGやhPLなど各種染色により約60〜70%のpurityが得られ、また培養上清中にもhCGを分泌していることが確認された。 一方、胎児仮死(hypoxia)では胎児血中のETやナトリウム利尿ペプチドであるANPおよびBNPの濃度が著しく増加していた。また胎盤組織中には極めて高濃度(2〜3ng/gr.tissue)のETー1が存在することや、ヒト胎盤組織にはA、B両typeのET受容体が存在することも判明した。これらの結果に基づいて、trohoblast培養系を低酸素条件下で培養したり、各種濃度のETー1とETー3を添加して、hCGの産生と5ーbromoー2'ーdeoxyuridine(BrdU)の取り込みに及ぼす影響を検討した。ETー1,ETー3何れもhCGの分泌が促進され、しかも、BrdUの取り込み量も増加する成績が得られた。これは、胎盤局所においては、高濃度のETー1がcytotrophoblastの増殖とhCG、hPL分泌を促進する方向に作用している可能性が示唆している。この作用はETー1、ETー3何れでも見られたので、ETB receptorを介していると考えられる。酸素濃度5%の条件下では、trophoblastは増殖能、分泌能いずれも酸素濃度20%群より抑制された。酸素濃度10%群では、増殖は殆ど影響されないが、hCG、hPL分泌は逆に酸素濃度20%群より促進されていた。この促進効果が、上記のETおよびET受容体を介したものか否かについては、今後の検討課題であるが、妊娠中毒症を合併した母体および仮死(hypoxia)を合併した胎児の血中ETー1濃度が高値を示したこととも関連して興味深い。以上、trophoblastの増殖や機能の発現にエンドセリンが密接に関与している可能性が示された。
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