研究概要 |
母児の接点である脱落膜は免疫学的妊娠維持機構において非常に重要な役割をになう。本研究は脱落膜より分離したリンパ球について多角的な検討を行い,妊娠における役割を明らかにすることを目的とする。 今年度の研究により以下のことが明らかにされた。すなわち,(1)脱落膜中には末梢血中にはほとんど認められないCD56^<bright+>細胞が過半数(約65%)を占めるのに対し,末梢血中の過半数(約64%)を占めるT細胞は約21%と少数であること。(2)B細胞,末梢血型NK細胞は脱落膜中には少数しか認められず脱落膜リンパ球は特徴ある分布を示すこと。(3)脱落膜Tリンパ球(CD4^+,CD8^+)は末梢血Tリンパ球に比較し活性化抗原の発現頻度が高く,妊娠の維持もしくは胎盤の発育に対して,積極的に関与している可能性が高いこと。(4)脱落膜T細胞の多くはmemoryもしくはprimed細胞のマ-カ-といわれるCD45ROを発現する分化型の状態で存在し,絨毛の発育に対し敏感に対応できる状態であること。(5)自然流産では脱落膜T細胞,CD56^<bright+>細胞は正常妊娠に比べ活性化されている頻度が高く脱落膜リンパ球は正常妊娠のみでなく自然流産にも関与している可能性があること。(6)性周期の子宮内膜ではCD56^<bright+>細胞は着床期に一致して増加し,T細胞の多くも活性化抗原およびCD45ROを発現しており,これらのリンパ球は妊卵の着床にも強く関与してる可能性が高いこと。 今後は,これらリンパ球の子宮内膜,正常妊娠および自然流産脱落膜における機能に関して,増殖因子の産生能およびkiller活性面からも検討を加え,最終的には着床ならびに妊娠維持におけるリンパ球の役割を解明する予定である。
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