着床前診断は2つの柱から構成される。まず1つは、着床前の胚子から診断試料を獲得する手段であり、もう1つはその試料を分析・診断することであるが、この1年間に行われた研究成果について報告する。 1.着床前胚子からの試料採取について: 現在までに53個のICR系マウス初期胚と15個のヒト初期胚(余剰胚のうち変性し胚移植に不適当と判定されたもの)について試みた。以下の操作はマイクロマニピュレ-タ-を用いて行われた。胚子にマイクロピペットを穿刺し一部の割球を摘出するには、透明帯を脆弱行し、各割球間の接着を解くことが必要であるが、この条件設定には哺乳類によって異なることを知った。割球間の接着解除にEDTAを用いたところ、マウス、ヒトでも良好な結果が得られた。透明帯の脆弱化のために各種酵素(トリプシン、ヒアルロニダ-ゼなど)を試みているが、酵素の種類と接触時間の長短によりかなりの差がみられることから、至適な酵素の選択と時間設定することが今後の課題として残された。また、摘出後の胚子の生存率は20%以下と低値で、操作時間の短縮、ピペットの改良が必要であることが示された。 2.摘出割球による分析・診断: 以前より研究をすすめているPCR法によりDNAを増幅し診断する方法を試みている。今までに15個のヒト胚子から摘出された割球からDNAを抽出し、PCR法によりY染色体特異領域を増幅し性別判定を試みた。現時点では、dual amplificationで30〜40サイクルでY特異的なバンドが検出できることを明らかにした。現在、少数例においてY染色体確認のためにin situ hybridization法により検出する方法を併用しているが、今後さらに症例数を増す予定である。
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