蝸牛に分布する遠心性神経の働きをモニタ-する為に、近年大幅に計測技術が進んだ耳音響放射を利用した。この現象は蝸牛の正常な働きに付随した現象と考えられ、基本的に4種類のものが知られているが、本邦では最近まで最も古典的なEOAEの研究しか行われていなかった。そのため、初年度の研究は4種類すべての耳音響放射を精密に計測するシステムの構成に費やした。この過程で、従来極めてまれなものとされていたモルモットのOAEを多数観測する事ができ、その基本的な性状を初めて明らかにする事ができた。OAEを有する動物での遠心性神経刺激は、予想に反してその周波数やレベルに大きな影響は与えなかった。 このシステムを基にして、2年目はDPOAEと呼ばれる現象の計測手法を検討した。その結果、DPOAEによって従来の聴覚検査では不可能だった客観的な聴覚機能の評価がだきることが明らかになった。しかも、この現象は周波数特異性が非常に高く、精密純音聴力検査でも補捉しえないような限局した蝸牛の機能障害を明瞭に描出することができた。さらにこの計測法をモルモットに応用し、今後研究を進める上での基礎的なデ-タを得て学会発表の形で公表した。しかしながら、この方法によっても難聴をもたらしている病因を鑑別診断することはそれほど容易ではなく、蝸牛遠心性支配神経の病態の診断法として利用するにはさらに基礎的な検討が必要であると思われた。
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