慢性の中耳炎症性疾患では側頭骨乳突蜂巣の発育抑制がみられる。とくに後天性中耳真珠腫では通常の慢性滲出性中耳炎や慢性化膿性中耳炎よりも、この抑制が一段と強いことが観察された。また、滲出性中耳炎から中耳真珠腫に移行する例でも、この抑制が滲出性中耳炎のなかでとくに顕著であった。 ブタの実験で出生直後に耳管を狭窄させると蜂巣の発育抑制が生じる。このことから乳突蜂巣発育期に耳管の中耳換気能が長期にわたり低下すると、蜂巣の発育抑制から中耳真珠腫の発生する可能性が示唆される。また、このような換気能不全が潜在すれば、耳手術による換気腔の増大から再び換気不全が強まり、真珠腫を形成する要因となって真珠腫の再発率を高めるものと考えられる。 上記の結果を踏まえて真珠腫の再発防止を主眼に鼓室形成術に乳突充填術を加える術式で手術を行った。この術式は中耳根治手術に準じて乳突腔を削開病変を除去した後、清掃乳突腔を充填するものである。これにより術後乳突腔が縮小され、耳管にかかる換気能の負担軽減から再形成真珠腫の発生が予防される。 乳突腔の充填材料としては当初自家骨骨片を用いたが、時に採取量の不足や再吸収といった問題があったため、医用セラミックスであるハイドロキアパタイトの組織親和性、安全性を動物実験で確認した後、本材を主な充填材料として用いた。この乳突充填法による成績は、現在のところ良好で異物反応もなく、また再発もみられていない。 今後課題は長期観察による手術成績の判定と本術式の評価から本症の予防についてさらに研究を進めることである。
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