研究概要 |
会話によるコミュニケ-ションは社会生活をおくる上で大変重要なものであるが,喉頭癌で喉頭を部分的に切除されると声が嗄れ,癌が進展した例では喉頭を摘出され音声言語機能を喪失してしまう.本研究の目的は,これらの患者の音声再獲得を図るための方法や新しい人工喉頭の開発にある.本研究ではまず,従来の喉摘後の代用発声法である食道発声や市販の人工喉頭の音声を分析した.食道発声では音圧が安定せず振動の周期性に乏しいこと,人工喉頭は音源が生来の喉頭の位置にないため,構音や音質に問題があることなどがわかった.現存の方法の中では,音声プロテ-ゼを使用した気管食道シャント発声が最良のものであり,これは駆動力として呼気を利用していることによると考えられた.さらに,シャント発声の振動機構や音声改善法が明らかにされた. 音声の面からみると,理想的な音源の位置は下咽頭で,駆動力は気流であると考えられた.これらの結果をもとにして新しい皮膚下咽頭瘻型人工喉頭を試作した.呼気を利用してリ-ドを振動させ,この音を皮膚下喉頭瘻孔から下咽頭腔に入れて構音するもので,通常の声に近い,良好な音質が得られた.長期留置あるいは埋め込み可能な材質,形状の決定,小型化は行い得ていない.今後の課題である. 喉頭を部分的に切除した場合には残存している組織をどう活用するかが問題になる.再建方法としては,長期的に萎縮の可能性の少ない甲状腺を材料として用いる方法や良好な粘膜振動を得るための遊離粘膜移植法を考案,施行し,良好な結果を得た.また,再建声帯を制御するトリガ-として喉頭の枠組みの外にある前筋(輪状甲状筋)の発火を用いる方法を開発し,犬に用いたところ良好な声帯の再運動化が得られた.さらに本法を人に応用し声帯の再運動化と良好な音声が得られた.
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