ラットを用いた動揺病の動物モデルを用い、動揺病の慣れの現象におけるアセチルコリン神経系の関与を検討した。まず抗コリン薬およびコリン作動薬のラットの動揺病の慣れの現象に及ぼす影響を検討した。ラットに連日の回転刺激を与えるとおよそ9日目あたりから、ラットの動揺病の指標であるカオリン摂取が減少してくる。これは、ラットが回転刺激に慣れたものと考えられる。抗コリン薬であるスコポラミンの経皮吸収剤であるTTSースコポラミンを回転第4日目から7日目の間ラットの耳介に張り付けると回転刺激によるラットの動揺病の慣れの現象が促進された。一方、コリン作動薬であるフィゾスチグミンを回転第4日目から7日目の間ラットに皮下注すると逆にラットの動揺病の慣れの現象が抑制された。しかし、末梢のみに作用するコリン作動薬であるネオスチグミンは慣れの現象には影響を与えなかった。以上の結果から、中枢のアセチルコリン神経系が動揺病の慣れの現象に関係していることを明らかにできた。 次に、記憶・学習と密接に関係しているとされる内側中隔野から海馬に投射するアセチルコリン神経系の選択的破壊がラットの動揺病の慣れの現象に及ぼす影響について検討した。ジフテリア毒を結合させたNGF(神経成長因子)を海馬に注入し、その起始核を破壊した。この動物に直線加速度刺激を連日与えてもカオリン摂取はほとんど誘発されなかった。以上の結果から、内側中隔野から海馬に投射するアセチルコリン神経系が動揺病の発症に関係していると考えられる。以上すべての結果から、内側中隔核から海馬に投射するアセチルコリン神経系は過去の感覚情報の記憶に関係しており、抗コリン薬の投与やこのアセチルコリン神経系の破壊により、過去の感覚情報の読み出しが障害されることにより感覚混乱の発生が抑制され、動揺病が抑制されたものと推定した。
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