外有毛細胞を中心とした内耳機能を反映すると考えられる誘発耳音響放射(EOAE)は、主に検出閾値について検討されており、内耳機能検査として用いられる事は少ない。本研究では、2連装の可変フィルタを用い、1.0ー2.0KHz間で100Hz毎の周波数帯域別にEOAEを検出する100Hz狭帯域EOAE分析を行い、(以下100Hz狭帯域EOAEと略す)、正常耳、突発性難聴耳、メニエ-ル病耳のEOAEの特徴を検討して以下の結果を得た。 A)正常耳の100Hz狭帯域EOAEは、1kHzから2kHzの全ての周波数領域に存在し、主に、10msecより短い潜時を持ったFast componentと10msecより長い潜時を持つSlow componentの二つのECHO群より構成され、且つ、前者はより高い周波数領域で、後者はより低い周波数領域で優位であった。 B)これら二つのECHO群の入出力曲線は検出閾値、飽和する音圧で大きく異なり、互いに性質の違うECHOと考えられる。 C)正常耳でみられるECHOの非線形性特性は、突発性難聴耳やメニエ-ル病耳では必ずしも認められない。よつて、nonlinear click sequenceを用いれば、障害耳のECHOの検出は出来ない場合がある。 D)Fast componentに比して、Slow componentの脆弱性はより強く、突発性難聴耳、メニエ-ル病耳においては先に障害を受け、振幅の減少、検出閾値の上昇がみられる。 E)突発性難聴耳でもメニエ-ル病耳においても、Slow componentの存在は、内耳の障害度は軽度であることを意味し、難聴の復元性が期待できる。 F)一般に、平均聴力(6分法)が50dB HLを越すとECHOの検出は不可能であるが、突発性聴難の新鮮例やメニエ-ル病の初期例では、平均聴力が50dB HLを越しても検出される場合がある。
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