緒言:聴力の加齢変化について従行よりいわれてきたことは、1)加齢とともに聴力は悪化する2)高音域に顕著である3)純音聴力に比べ語音聴力が悪化するということである。上記に加えて我々が主張してきたことは4)聴力悪化速度の2相性5)聴力分布の2峰性であった。 目的:本研究の目的は加齢による聴力変化の動態をより精密にとらえることであった。 方法:北里ヘルスサイエンスセンタにて5年間以上にわたり聴力検査を施行された例について個人の聴力変化と全体の聴力変化について検討した。 結果:30歳代の5年間の聴力変化をみると、いずれの周波数でも全体ではほとんど変化でみられなかった。個人の聴力は±15dBの範囲にとどまり、分布が+の方に片寄っているということはなく誤差範囲と考えられた。60歳前後の5年間の8KHzについてみると、20dB以上の変化を来す例がみられた。全体では dBの変化で、従来のこの年齢にみられる変化量と同じであった。 20dB以上変化した例を個人にすべての検査について検討すると、5年間に徐々に悪化するのではなく、1(-2)の年の間に悪化する傾向がみられた。 結論:従来聴力の加齢変化は徐々に起こると考えられていたが、個々人の聴力はほぼ静止している時期と比較的急速に進行する時期に分けられる。集団で検討するとあたかも徐々に進行するかのようにみえるに過ぎないということである。
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