代表的な経口眼圧降下薬であるアセタゾラミドとその標的である炭酸脱水酵素IIとの相互作用を500MHz水素核核磁気共鳴で検討し以下の結果を得た(炭酸脱水酵素IIはウシ赤血球由来のものを用いた)。【1】スピン・エコー法の一つであるCPMG法を炭酸脱水酵素IIの適用し、1分子中11残基あるヒスチジン残基のうち、分子の内部にある2残基を除く、9残基のイミダゾール環のC_2につく水素核に由来する核磁気共鳴信号を捕捉した。【2】9個の核磁気共鳴信号を一次構造に帰属させるべく、酵素を塩基性にした重水中に置き、イミダゾールの重水素化速度を核磁気共鳴で測定し、重水素化された酵素の各残基の重水素化率をFABによる質量分析で測定する方法などを試みたが、FABのバックグラウンドの問題が解決せず断念した。【3】【1】の方法で捕捉した信号を指標として代表的な異項環スルフォンアミドであるアセタゾラミド炭酸脱水酵素IIとの相互作用をみた。その結果、アセタゾラミドは炭酸脱水酵素IIと複合体を形成するにあたって、スルファモイル残基が酵素の活性中心と結合する他に、アセタミド基がヒスチジン残基の一つと相互作用することが分かった。この結果は、既に発表されているX線回折の結果を支持しない。【4】アセタゾラミドの同族体であるメチルアミノチアジアゾールスルフォンアミド、ホルミルアミノチアジアゾールスルフォンアミドについても同様の実験を行った。アセタゾラミドとほぼ同様の効果が認められた。スルファニルアミド(6員環)はアセタゾラミド等5員環スルフォンアミドの場合のような、pHで変化する信号がpHで変化しない信号に変わるような現象は観られなかった。【5】アセタミド基と相互作用するヒスチジン残基を、酵素を化学修飾して核磁気共鳴によって特定しようと試みたが、その化学修飾によってスペクトルの重要な一部が変化してしまい、試みは失敗に帰した。そこで、分子力学計算を行った。その結果、相互作用するヒスチジン残基はHis-64であると推定した。【6】アイソザイムIの場合、アイソザイムIIの場合で見られてようなアセタミド基とヒスチジン残基が相互作用していることを示すデータは得られなかった。
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