1.目的:硝子体手術後に発現する白内障の中で、術前透明であった水晶体に出現する核白内障は特異的である。この混濁形態に的を絞り、その発現様式、進展の経過を臨床例、実験動物眼(猿眼)について検討した。2.対象、および方法:対象は当研究施設で単純硝子体切除術が施行され、追跡検討が可能であった20症例と、単純硝子体切除が施行されたカニクイ猿5匹である。人眼の観察は、(1)細隙灯顕微鏡による水晶体観察、(2)Scheimpflugカメラで撮影された水晶体画像の散乱光強度明側、(3)Opacity lens meterによる水晶体中央部の透明度明測、(4)Laser scattering spectroscopyによる観察と水晶体Scheimpflug画像からの散乱光強度測定、摘出水晶体についてはこれを走査電子顕微鏡で観察した。3.結果:(1)検討に先立ち、水晶体核部混濁の客観的評価法を検討した。評価法は前年度の研究で基礎的検討を終えていたが、更に改良を加えた核混濁診断法を確立した。(2)臨床例では核混濁の出現の前に皮質深部に初期変化が現れることが明らかとなった。この変化は前・後深部皮質の散乱光強度増強であり、検討例の半数でこれが3ケ月以内にみられた。(3)猿眼でも硝子体手術後1ケ月以内に、皮質部散乱光の増強がみられた。(4)摘出水晶体標本では、弓状部付近の皮質深部に波状の線維走行の乱れと、線維側面の稜突起の変形を示す所見がみられた。生体計測で得られた皮質部散乱光の増強部位と、水晶体線維が波状変化を呈した部位はほぼ一致していた。4.結論:硝子体手術後に現れる水晶体の変化は、これまで考えていたよりも早い時期から始まり、その初期変化は深部皮質の散乱光強度の増強として現れることが明らかとなった。この所見は水晶体線維の乱れによるものと推測される。硝子体術後の白内障の検討に、今回の猿眼実験モデルは有用な検討材料となる得るものと考える。
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