三又神経脊髄路核において痛覚を伝導する神経線維と考えられているCGRP陽性線維がP物質をも共存させる事実は、ネコにおいて前年度に明らかにした。本年度は口腔領域の痛覚モデルとして実験的歯髄炎を発症せしめてラットの三又神経脊髄路核において、疼痛抑制物質であるオピオイド(ダイノルフィン・エンケファリン)含有ニュ-ロンとCGRP陽性線維、即ち痛覚の伝導に関わる二次ニュ-ロンと一次ニュ-ロンの関係について免疫組織化学法を用いて光顕的に解析した。 実験動物の一側の歯髄にアジュバント物質を直接に投与して歯髄炎を発症させると、3〜4日後に同側の三又神経脊髄路核の尾側亜核において第I層と第V層にダイノルフィン陽性ニュ-ロンの増加が観察された。エンケファリン陽性ニュ-ロンは実験側と対照側の間に差異は観察されなかった。これらは多角形ないし多極性の中型ニュ-ロンであった。一方、CGRP陽性線維は同尾側亜核において第I層と第V層に密に分布するが、実験側よりも対照側において免疫組織化学的に強い標識が認められた。 これらダイノルフィンとCGRPを二重標識法により同時に観察した場合、炎症誘発モデルの実験側において、第I層と第V層のダイノルフィン陽性ニュ-ロンの細胞体およびその樹状突起上にCGRP陽性終末が光顕的に接触している像が観察された。 以上の結果より、口腔領域の歯痛を伝導する神経線維の一部はCGRPを含有しており、三又神経脊髄路核の尾側亜核においてオピオイド(ダイノルフィン)含有ニュ-ロンに直接シナプス結合して、上位脳(中脳および間脳)に投射するニュ-ロンあるいは局所回路ニュ-ロンに痛覚情報を伝達して、疼痛の抑制に関与する事実が示唆された。
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