本研究では、ビデオあるいはレーザー顕微鏡で開口分泌時の細胞動態(分泌顆粒の動き、膜融合の過程、膜融合後の余剰膜の処理など)を直視して、唾液分泌の調節機構を解析している。本年度はこれまで電顕的・生理学的に全く異なるとされているβ刺激とムスカリン刺激による分泌機構の差を明らかにし、さらにプロテインキナーゼ、カルシウムなど細胞内情報伝達系による唾液分泌の調節機序を解析することを目的として実験した。 I.分泌刺激の違いによる開口分泌過程の差:ラット耳下腺は、β刺激でアミラーゼ分泌、α刺激やムスカリン刺激で水分泌が生ずるといわれている。β刺激薬としてイソプロテレノール、ムスカリン刺激薬としてカルバコールを用いて分泌刺激を与え、それぞれの開口分泌のパターンを観察・解析した結果、β刺激ムスカリン刺激いずれも開口分泌による膜融合があること、ただしムスカリン刺激では融合膜ぎ一旦拡大して空胞様構造を形成し、それがエンドサイトーシスでとりこまれるのに対し、β刺激ではそのような現象が見られないことが示された。すなわちβ刺激とムスカリン刺激ではexocytosis-endocytosis coupling機構が異なることが明らかとなった。また、こうした分泌時のアクチン線維の変化を解析したところ、β刺激では融合膜をアクチン線維が包むのに対し、ムスカリン刺激では包まないことが判明し、細胞骨格による調節機構が考えられた。 II.セカンドメッセンジャーによる分泌制御機構の解析:分泌のセカンドメッセンジャーは、β刺激がサイクリックAMPで、ムスカリン刺激がカルシウムとイノシトールリン脂質である。種々のカルシウムアンタゴニスト、AキナーゼやCキナーゼの阻害剤などを投与した結果、少なくともカルシウムとアクチンの相互作用によってβ刺激とムスカリン刺激の開口分泌の膜動態が調節されていることが推定された。 以上の解析にあたって、ビデオテープ、フィルム、薬品などの消耗品費を中心に経費を使用した。
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