体重250ー350gのSpragueーDawley系雄ラットを用い、上顎第1および第2臼歯の歯冠部に矯正用ゴムを1週間挿入することによって、歯周炎を惹起させた。1週間後にゴムを除去し、露出した歯根面の最歯根側に切痕を入れ、粉末飼料によって飼育した。ゴム除去直後から24週にわたり歯周組織の治癒過程を光学顕微鏡的、免疫組織化学的および電子顕微鏡的に観察した。ゴム除去後1週目の露出根面にはポケット上皮の形態をとる上皮の再生がみられたが、切痕部(露出根面の最も根尖寄り部)を含む歯根面には多量の滲出物が付着し炎症性細胞も多数浸潤していた。4週後では、歯冠側の再生上皮はポケット上皮の状態を呈していたものの、切痕部を含む歯根側の表面は長い付着上皮によって覆われていた。16週後、20週後、24週後と時間の経過に伴って、長い付着上皮はその長さと幅を減じていき、歯根表面は漸次線維性結合組織によって被覆されるようになった。切痕部も20週以上降は線維性結合織によってその表面が覆われていた。すなわち、ゴム挿入によって歯周組織が破壊され、これによって生じた露出歯根表面(実験的には切痕でマ-ク)はじめ滲出物や炎症性細胞、次いで上皮細胞によって被覆され、時間の経過に伴って、結合組織によって置換されたことになる。再生した結合組織を詳細に観察すると、線維や細胞は歯根表面に対し垂直に配列し、いわゆる歯根膜様の構造を呈していた。また切痕部および露出根面の表層には菲薄な無細胞性セメント質が形成され、その中に歯根膜線維が埋入されていた。免疫組織化学的な検索では、歯根表面の上皮性付着の部位にはラミニンが、また結合織性付着の部位にはフィブロネクチンが、それぞれ基底膜に相当する部に局在していた。以上の結果から、ラットにおける実験的歯周炎によって生じた露出根面では、上皮性付着が結合織性付着によって置換される可能性が強く示唆された。
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