研究概要 |
プロパンにより急速凍結固定したラット基質形成期エナメル質(小柱エナメル質)に,従来普通化学固定標本では観察されない構造物が確認された。すなわち,エナメル芽細胞のト-ムス突起に近い領域のエナメル質針状結晶を横方向に連絡する梯子状構造物,さらにエナメル質針状結晶横断面ではその周縁部を被覆する中程度の電子密度を有する構造物がみられた。エナメル質のハイドロキシアパタイト結晶は,エナメルタンパクにより被覆されていることが知られているので上記エナメル質結晶周縁にみられる構造物はエナメルタンパクと考えられ,急速凍結置換固定により電顕的に可視化されることが示唆された。一方,イモリの形成期エナメル質(無柱エナメル質)では上記梯子状構造物は観察されなかった。ラットエナメル質針状結晶は規則正しく配列しているが,イモリの無柱エナメル質のそれはかなり不規則となっている。このことは,上記梯子状構造物がエナメル質針状結晶の配列を規制している可能性を示唆している。さらに,HIDーTCHーSP染色(硫酸化複合糖質検出法)によれば,HIDーTCHーSP染色顆粒は,ラット基質形成期エナメル質表層部に限局しているのに対して,イモリ基質形成期無柱エナメル質ではその全層を通して染色顆粒は認められなかったことから,梯子状構造物がある種の硫酸化複合糖質である可能性が高い。イモリ腹腔内に ^<35>SーSO_4を投与した光顕オ-トラジオグラフィ-によると,骨組織および象牙質領域に銀粒子がみられたが形成期無柱エナメル質に銀粒子は検出されなかった。以上の所見は,ラットエナメル質形成に関連して合成分泌される硫酸化複合糖質は,小柱エナメル質の形成,殊にエナメル質針状結晶を互いに等間隔に連絡することにより針状結晶を規則的に配列させる機能を有しているものと考えられる。
|