本研究はラットへのエンドトキシン投与が歯髄組織にどのような組織障害を起こし、その機序にPAF(血小板活性化因子)やアラキドン酸代謝物といった脂質炎症メディエ-タ-がどの様に関与するかを検討することであった。その結果、ラットにエンドトキシンを静注すると歯髄組織におけるPGI_2及びTXA_2生成が上昇すること、この上昇作用は消化管組織では観察されず、肺組織ではTXA_2生成のみが上昇することが明らかとなった。このエンドトキシンの作用はPAF拮抗薬により抑制させなかった。またアラキドン酸代謝亢進にも関わらず歯髄組織の血管透過性の亢進も認められなかった。さらにエンドトキシンによって歯髄組織のPAF含量の変化もみられなかった。この機序については他のメディエ-タ-の関与や歯髄の微小循環系への影響も含めて更に検討する必要がある。また組織学的や予備的検討により、比較的低用量のエンドトキシン投与により切歯象牙質形成の明らかな障害像が観察され、これについても今後の詳細な検討が必要である。本研究ではさらに、微小循環障害機構を考える上で重要である血管内皮細胞、好中球そして血小板の相互作用における脂質メディエ-タ-特にPAFの役割について検討を加え、好中球の存在下においてPAFは内皮細胞上への血小板粘着を誘発することを明らかにし、微小循環障害機構にはこれらの細胞間相互作用が重要であること示唆した。以上のように歯髄組織におけるアラキドン酸代謝がエンドトキシンの全身性投与によりin vivoで変化することにより、本実験モデルは歯髄の病態生理におけるアラキドン酸代謝物の役割を知る上で有用な糸であると思われる。
|