研究概要 |
(1)エタノ-ル好気代謝にともなうATP生成系を利用して,う蝕原性Streptococcusmutansの細胞内ATPプ-ルの変動パタ-ンをATP生成速度,ATP濃度の面から詳細に検討したところ,非増殖状態においてATP濃度約1mMを境として代謝回転速度の異なるサブプ-ルが存在することが明らかとなった.すなわち,高濃度側では代謝回転はきわめて速く,低濃度側ではその約1/4以下となる.そこでこのような異なる代謝回転速度を支配しているエネルギ-利用系の実体を明らかにする目的で,(2)以下の研究を行った. (2)本年度の補助金によって購入した設備を用いてケモスタットを構成し,S.mutans FAー1株のpHを7.0〜5.0の範囲で変化させて培養すると共に,増殖速度も広範囲に変化させて,増殖収率,グルコ-ス代謝最終生成物の定量を行った.その結果,増殖pHの低下によってグルコ-ス1モル当りの収率は低下するが,生成されるATP1モル当りの収率は変化しない,すなわち,維持エネルギ-コストが顕著に増加することが明らかとなった.維持エネルギ-は細胞内の環境恒常性を保つために費やされるエネルギ-であることと,今回の培養条件を考慮すると,これらの結果は酸性条件下でも細胞内pHを中性に保つために多くエネルギ-が消費されていることを反映しているものと考えられる. (3)(2)の結果に基づいて細胞内pH調節に重要な役割を果していると考えられるプロトンATPase活性を中性(pH7.0)増殖細胞,酸性(pH5.0)増殖細胞について比較する計画を立てている.このための予備実験として,細胞抽出液調製法,ATPase活性測定法,各種阻害剤の効果などを現在調べている.
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