今年度の研究目的は、自由に生活するウサギの行動パタ-ンを下顎運動・咀嚼筋活動の点から分類し、硬さや形の異なる食品を与え、その時の咀嚼パタ-ンを従来の方法で記録された咀嚼パタ-ンと比較することで、頭部固定法の自由運動ほの影響を検討することにあった。昨年度同様、磁気システムによる下顎運動軌跡の記録と、埋め込み電極による筋電図記録を行ったが、頭部固定の影響を研究するために、下顎運動軌跡記録装置を改良し下顎運動と同時に頭部の頚ふり運動をも記録できるようにした。また。昨年度は片側の咬筋と顎二腹筋筋電図を記録したが、今年度は両側の咬筋・顎二腹筋に加え、顎舌骨筋・甲状舌骨筋・胸骨舌骨筋筋電図も記録した。その結果、自由咀嚼時には餌を口腔内に取り込むために頭部を傾けるが、咀嚼時には頭部は水平で一定していること、そして、その咀嚼パタ-ンは基本的には従来の方法、すなわち頭部固定法で記録したものと同じであることが分かった。しかし、頭部固定法では動物は餌を自分の意志で摂取できず、実験者が適当量与えていた。このため、食物摂取直後、咀嚼中、そしと嚥下直前でそれぞれ特徴的な咀嚼パタ-ンが存在するとの従来の報告には、再考の余地があることが示唆された。異なる硬さの食品咀嚼がその咀嚼運動に変化を及ぼすか、咀嚼周期時間・FC相時間・SC相時間・開口相時間を測定し、それぞれ比較した。その結果、柔らかい食品咀嚼時の周期時間は硬い食品咀嚼時の周期時間と比較して有意に延長していた。確かにSC相は従来の報告どうり硬い食品を咀嚼するときの方が有意に延長していたが、開口相の短縮はこのSC相の延長より顕著であり、結果として硬い食品咀嚼時の周期時間の短縮をもたらすことが分かった。この他にも、咀嚼以外の周期的な下顎運動(毛づくろい・飲水行動)の研究、咀嚼運動時閉口相に観察される一過性開口筋活動なども発表し、当初の目的を遂行できた。
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