本研究は、無麻酔・無拘束下にウサギの下顎運動および咀嚼筋筋電図を記録し、1.自由行動時の下顎行動を、下顎運動軌跡・咀嚼筋活動を基に分類する。2.硬さや形の異なる食品を与え、その時の咀嚼パタンを従来の頭部固定法で得られた知見と比較することで、頭部固定法の自由咀嚼運動への影響を検討する、目的で行った。下顎運動軌跡の解析には、磁気を応用した記録装置を用いた。上顎骨に2つの磁気センサを、下顎骨にサマリウム・コバルト磁石を埋め込み、下顎運動軌跡を垂直方向および水平方向の2次元的に記録した。さらに磁気センサを増設し、地磁気を記録することで頭部の運動も記録できるよう改造した。筋電図は銀電極とステンレス製より線を用いて双極性に導出し、両側の浅層咬筋・顎二腹筋、片側の咬筋深層・内側翼突筋・顎舌骨筋・甲状舌骨筋・胸骨舌骨筋の中から6筋を選別して記録した。脳波は頭頂部よりビス電極にて導出した。全ての信号線は皮下を通して頭頂部に固定したコネクタに値続され、柔軟なコ-ドで記録装置に入力された。記録は夜間連続5時間ずつ行った。記録された下顎行動は、ビデオカメラにより視覚的に確認された。その結果、ウサギの下顎行動に、咀嚼・飲水・毛づくろいの3種の特徴的な運動パタンを持つ周期的な運動と、睡眠時の歯ぎしりや咬みしめに相当すると考えられる一過性の閉口筋活動が観察された。咀嚼運動は、基本的には頭部固定法により研究された知見と、本研究で観察された自由運動時の知見に相違は無かった。しかし、中枢にプログラムされた咀嚼パタンへの末梢性修飾機構に関しては、従来の頭部固定法による知見に、新たな知見を加えることができた。当初の目的は十分達成できた。
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