S.mutansの蔗糖輸送系の一つであるホスホエノールピルビン酸依存ホスホトランフェラーゼ系(PTS)蔗糖エンザイムIIの遺伝子(scrA)発現調節機構解明のため、scrA遺伝子周辺に存在するであろうその調節遺伝子の検索を行なってきた。前年度までの研究で、これらの領域に三つの比較的小さな遺伝子の存在が明らかになっており、それら遺伝子の失活変異株の構築から、それらが調節遺伝子であるか否かを調べてきた。ところが、それらのうち、scrA遺伝子のすぐ下流の存在する遺伝子は、scrAの調節遺伝子ではなく、フルクトキナーゼをコードする構造遺伝子scrKであるらしいことが推定されるに至った。これにより、蔗糖がEmbden-Meyerhofの解糖系路へ至るまでの代謝系路の酵素の遺伝子がすべて同定されることになり、それらが蔗糖PTSレギュロンを構成しているものと考えられた。そこでscrAの発現調節はこのレギュロンを単位として考察する必要があり、その前にこのscrK遺伝子の性質を明らかにしておく必要があると考えられたので本年度はこれを行った。既にクローニングされているDNA断片は、このscrK遺伝子の3'末端を含んでいなかったので、染色体よりその3'領域を分離し、完全なscrK遺伝子を構築し、その塩基配列を決定し、更に過剰発現を試み、その性質を調べた。このscrK遺伝子は分子量約3万のタンパク質をコードしており、その上流にプロモーター様配列が認められることから、scrA遺伝子とは独立して制御されている可能性も示唆された。このフルクトキナーゼはマンノースもリン酸化し、マンノースはフルクトースのリン酸化を競合的に阻害した。またScrAや蔗糖6-リン酸水解酵素遺伝子ScrBのタンパク質では他菌種のものとかなり高い相同性が認められたけれども、それら菌種との間でのフルクトキナーゼにおける相同性は全く認めらず、前述の酵素基質特異性も異なり、同じ蔗糖PTSレギュロンを構成する遺伝子であるにもかかわらずその進化論的起源が異なるかもしれないと推定されたことは興味深い点であった。
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