各種咀嚼筋力学特性の下顎の維持や顎運動における役割を知るため、平成2年度の設備備品などより構成された筋力学特性解析システムを用いて、アカゲザルの咬筋、側頭筋、外側翼突筋上頭および下頭のグリセリン処理標本のカルシウム(Ca^<2+>)濃度ー等尺性収縮張力関係およびステップ状筋長変化時の張力過渡応答(クロスブリッジの結合解離反応を現す指標)を解析した。等尺性収縮張力は4筋ともCa^<2+>濃度の上昇とともにS字状に増大し、最大値の50%の発生張力が観察されるpCa(-log Ca^<2+>濃度)は咬筋で5.88、側頭筋で5.84、外側翼突筋上頭で5.50、下頭で5.90であった。最大発生張力は咬筋で最も大きく約15g/mm^2上頭で最も小さく約9g/mm^2であった。張力過渡応答は4筋とも、既に我々がモルモット咀嚼筋で観察しているように、3つの異なる時定数を持つ指数関数の和で近似でき、クロスブリッジの結合解離を反映する指数関数の時定数は咬筋が最も小さく36.5±4.5msec(平均値±標準偏差n=5)、側頭筋で41.0±2.4msec、外側翼突筋上頭で41.0±9.1msecそして外側翼突筋下頭で最も大きく65.9±5.2msecであった。比較のため速筋としてよく知られているニワトリのposterlor latissimus dorsi(PLD)について調べた結果、その値は36.1±1.3msecで咬筋の値と大変よく一致した。現在、上記の各咀嚼筋間に見られる力学特性の違いを収縮蛋白レベルで検討するため、電気泳動法を用いて蛋白を同定中である。又、既に報告しているモルモット咀嚼筋の結果と比較検討し、顎運動との関連を追求中である。
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