各種咀嚼筋の力学特性およびATPase活性を解析するため、(1)顎運動が比較的人間と似ているサル(平成2年度)および、(2)咬合挙上(3日および1週間)により顎運動を制限されたモルモット(平成3年度)からの各種咀嚼筋のグリセリン処理標本を用いて、等尺性収縮張力ーCa^<2+>濃度関係、ステップ状微少筋長変化時の張力過渡応答、最大短縮速度、およびATPase活性などを解析した。サル標本(咬筋、側頭筋、外側翼突筋上頭および下頭)では、等尺性収縮張力はCA^<2+>濃度の上昇とともにS字状に増大し、最大値の50%の発生張力が観察されるpCa(ーlogCa^<2+>濃度)は咬筋で5.88、側頭筋で5.84、外側翼突筋上頭で5.6、下頭で5.9であった。最大発生張力は咬筋で最も大きく約15g/mm^2、上頭で最も小さく約9g/mm^2であった。張力過渡応答の時定数(クロスブリッジの結合解離速度を反映する値)は、咬筋<側頭筋=外側翼突筋上頭<外側翼突筋下頭の順で大きく、クロスブリッ部の結合解離速度が咬筋で最も速いことが示唆された。咬合挙上モルモットの標本(咬筋および顎二腹筋)では、等尺性収縮張力ーCa^<2+>濃度関係は、咬筋の1週間挙上、顎二腹筋の3日および1週間挙上で低Ca^<2+>濃度側に移動し、対照群(正常モルモットよりの標本)に比べて有意なCa^<2+>感受性の低下を示した。最大発生張力は咬筋の場合、1週間挙上により有意に増大したが、顎二腹筋の場合には有意な変化は観察されなかった。最大短縮速度は顎二腹筋の場合、1週間挙上により有意に速くなったが、咬筋の場合には咬合挙上により有意の差は認められなかった。tension cost(ATPase活性/発生張力)は咬筋の場合のみ1週間挙上により有意に減少した。これらの結果は、咬合挙上により、咬筋ではATPを経済的に消費し、より大きい張力を発生し、顎二腹筋ではtension costに変わらないが、収縮蛋白のCa^<2+>感受性が低下し、短縮速度が増加することを示唆する。
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